印刷用のPDFファイルはこちらから

日本骨髄腫患者の会

第11回国際骨髄腫ワークショップ「多発性骨髄腫の新しい治療戦略」

名古屋市立緑市民病院 院長 清水一之先生

2007/7/7

  先頃発表された 国際病期分類(ISS)は、β2-microglobulin(β2M)とアルブミン という日常診療で簡単に測定できる検査に基準値を設定した分類で、腫瘍量を反映するので 予後が推測できます。しかし患者の予後に関わる因子として腫瘍量も重要ですが、腫 瘍細胞の遺伝子マーカーがより重要であることがその後の研究で分かってきました。 現在判明している骨髄腫細胞の遺伝子異常には表1に示すものがあります(表1)。

  FISH(fluorescence in situ hybridization)法での17番染色体短腕欠損 (deletion 17p)(17pにはp53癌抑制遺伝子が存在しています)、4番と14番染色体の転座 (t(4;14))、14番と16番染色体の転座(t(14;16))、通常の染色体分析での13番染色体 長腕欠損(deletion 13q)(13qにはRb癌抑制遺伝子が存在)と染色体数の減少 (hypodiploidy)は、通常量或いは大量化学療法(high-dose therapy, HDT)による治療 では予後不良で、高リスク(high risk)に分類されます。一方染色体数の増加 (hyperdiploidy)とFISH法によるt(11;14)とt(6;14)は治療法に関わらず予後良好で、 通常のリスク(standard risk)に分類されます。

  最近これら遺伝子異常に基づいたリスク別、そしてHDTの適応の有無で層別 化した新治療戦略が提案されています(図1,2)。

  去る6月25日から 29日まで医学の父とされるヒポクラテスの生誕地で あるエーゲ海ギリシア・コス島で行われた第11回国際骨髄腫ワークショップでは、 これら新治療戦略における新規薬剤の役割を中心に最新の知見が紹介されました。

1) 新規薬剤による初期治療

  新規薬剤はこれまで治療抵抗性/再発患者における効果が検討されてきまし たが、high riskの患者にも有効性が示され、且つ全体として高い完全寛解 (complete response, CR)率が認められ、未治療患者の初期治療に投与される方向へ展開 しています。しかも個々の新規薬剤の効果が検討された段階から、ステロイド、新規薬剤 同士、或いは既存化学療法剤との併用療法が検討される段階に発展しています。

2) HDT適応患者の治療

  HDTは65(或いは条件が許せば70)歳以下の未治療患者に最善の結果をもたら す治療法として、現時点で骨髄腫治療の標準とされていますが、HDT前の導入療法として はこれまでVADが一般的でした。しかし、新規薬剤のbortezomib (Velcade, 以下V)と lenalidomide (Revlimid, 以下R)はhigh riskの患者にも有効であることが証明され、 dexamethasone (以下Dex)との併用で高いCR率が得られるので、VADに代わって導入療法に 用いられようとしています。しかも経口薬剤のRevと低用量のDexの併用は安全性が高く、 新治療戦略ではこの併用療法が導入療法として提案されています。フランスのHarousseau はVとDexの併用療法でCRとM蛋白の90%以上の減少を得るVGPR(very good partial response) が高率に得られ、2回目のHDTを行う頻度が減少したと報告しています。新規薬剤による 導入療法でHDTによって得られるCR率よりも高い奏功が得られれば、HDTそのものが不要と なる可能性があります。一方HDTにおける従来のmelphalan(以下M)大量にこれらの 新規薬剤を併用する方法が提案され、更に高率のCRを得る可能性も出てきました。

3) HDT後の維持療法

  現時点でHDT後の維持療法として勧告できるものはありませんが、フランス IFM99-02の比較試験で、サリドマイド(thalidomide, 以下Thal)による維持療法で生存期間 が延長したとの報告があります。只、アーカンソーのBarlogieは彼の行ったtotal therapy 2 の試験で、Thal投与群の患者の再発後の予後が悪いことを報告していますので、維持療法を 継続する期間が問題となっています。又、維持療法を行うよりも、再発してからサルベージ 療法としてThalを投与した方が結果的に生存期間を延長するのではないかという議論があり ます。もっともThalはhigh riskの患者には有効でないという報告があり、RやVとDexの併用 療法が維持療法として提案される可能性があります。

4) HDT非適応患者の治療

  HDTの適応のない高齢者、或いは65歳以下であっても問題があってHDTができな い患者には、これまで通常量の化学療法、特にMとプレドニソロン(prednisolone, P)の併用 のMP療法や多剤併用療法が投与されることが一般的でした。しかし、スペインのPalumboと フランスのFaconが行った2つの臨床研究で、MPにThalを併用したMPT療法がMPを上回る生存 期間延長効果を発表しています。従って新治療戦略では該当患者の初期治療はMPT12サイクル が提案されています。しかし、Thalはhigh riskの患者には有効でない可能性があるので、 Thalの代わりにRやVを投与するR-MPやMP-Vの臨床試験が行われていて、直接比較した試験は ありませんが、成績を単純に比較するとR-MPとMP-Vの法がMPTを上回ることが分かって、 high riskに分類された患者にはこれらの治療法が選択されると考えます。

5) 同種移植

  同種移植は高齢者の多い骨髄腫患者では適応となることが少なく、しかも高率 の移植関連死と晩期再発が知られ、米国での研究は止まっています。そこで治療強度を弱め た骨髄非破壊的同種移植(ミニ移植)が注目されています。しかし、治療強度が弱い分、 腫瘍量の多い患者には無効であるので、ミニ移植前に自家造血幹細胞移植による救援療法を 伴ったHDTを行って、腫瘍量を減らしておいてからミニ移植を行うtandem auto/mini-alloが 提案されています。今回のワークショップではこのtandem auto/mini-alloと2回のHDTを 行うtandem autoとの比較試験の結果が報告されました。フランスのMoreauは両治療法に 優劣はないと報告し、イタリアのBrunoはtandem auto/mini-alloが優れると報告しました。 両試験とも指摘された問題点があり、現時点ではどちらの治療法が良いか判断できません。 しかし、新規薬剤をHDT前の導入療法に用いた場合、これまで得られた以上の腫瘍量減少効果 が得られるかも知れず、続くミニ移植による免疫反応で僅かに残った腫瘍を無くすことが できるかも知れないので、今後tandem auto/mini-alloが積極的に行われるようになるかも 知れません。

6) 安全性

  新規薬剤には欧米で顕著な深部静脈血栓症を始め、血球減少、神経毒性などの 多彩な副作用が見られます。これらの副作用は併用薬剤によって更に増強することが知ら れていますので、新規薬剤治療は有効性のみならず、安全性にも注意を払う必要があり ます。

  今回のワークショップで明らかになったように、新規薬剤の登場で骨髄腫の治療 戦略が変貌しようとしています。しかしサリドマイドですら承認が下りていない本邦の現状 では、世界規模で進行中の治療展開を指をくわえて見守ることしかできません。又、CRの 定義に加えられた血清遊離軽鎖定量法は多くの欧米のガイドラインで勧告されている検査法 ですが、本邦では申請前の治験中という段階です。患者皆さんの支援を得て、これら新規薬剤 と検査法が一日も早く承認されることを願うばかりです。

学会情報へ戻る