プロテアソーム阻害剤 Bortezomibボルテゾミブ(商品名 VELCADE®ベルケード)の
多発性骨髄腫における有効性


ベルケード®とは?
 ベルケード®は、プロテアソーム阻害活性を利用した新しい作用機序をもつ抗がん剤です(1)。
 2003年5月13日アメリカFDAは、これまでに少なくとも2種類以上の治療を受け、最後に受けた治療後、病気の進行が認められる多発性骨髄腫患者を対象にベルケード®を承認しました(2)(3)。化学療法に抵抗性になった多発性骨髄腫には有効な治療法が乏しく、FDAはaccelerated approvalと呼ばれる迅速な承認プログラムにのっとり初期の臨床研究の成果をもとに承認しました。現在もベルケード®の臨床試験は継続中です。
 日本では2005年10月、承認申請を提出しました。臨床試験は、第2相試験が進行中です。
 治験の詳細は治験情報のページをご覧ください。

プロテアソームとは?
 体を構成する細胞は成長過程で分裂・増殖し、古くなって働きを終えた細胞は新しく増殖した細胞に置き換えられます。このような細胞の分裂する過程を細胞周期(Cell Cycle)とよびます。 細胞周期を調節する経路において、円滑に細胞分裂を行うためにタンパク質の存在は不可欠です。プロテアソームは生体のすべての細胞に存在する酵素複合体で、細胞内で不要になったタンパク質を分解する重要な役割を担っています。プロテアソームによるタンパク質分解は、細胞周期を遂行するうえで必須です。
 1990年代の基礎研究によると、プロテアソームを阻害することにより、細胞周期調節不全が引き起こされ、試験管内の実験では各種腫瘍細胞株のアポトーシス(細胞自滅)を誘導することが報告されました(4)(5)。以降、新しい作用機序をもつ抗がん剤として応用できるのではないかと注目され、開発が進められました。

プロテアソーム阻害剤 ベルケード®はどのように作用するのか?
  骨髄腫細胞の増殖には、「NF-κB」と呼ばれる転写因子(遺伝子の発現を調整する機能をもつ蛋白質)が深く関与しています。通常、NF-κBは阻害タンパク質I-κBと結合し、抑制された状態になりますが、骨髄腫細胞の中では、間質細胞によって産生されるインターロイキンなどのサイトカインの刺激によってI-κBがユビキチン化し、ユビキチン修飾を受けた蛋白質を特異的に分解する性質があるプロテアソームは、より速やかにI-kBを分解します。その結果、結合する相手がいなくなったNF-κBは骨髄腫細胞の核内に移動し、次のような骨髄腫細胞の増殖に深く関わるサイトカインや接着分子を産生する遺伝子にスイッチを入れ、骨髄腫細胞の増殖に寄与します。
1) インターロイキン-6 (IL-6)−骨髄腫細胞の増殖因子であるサイトカイン
2) 腫瘍壊死因子 (TNF-α) −直接、間接的に骨髄腫細胞の増殖に関与するサイトカイン
3) 骨髄中の骨髄腫細胞に栄養を送る毛細血管や新たな血管の形成を促す血管内皮成長因子(VEGF)。
4) 骨髄腫細胞を骨髄ストローマ細胞と内皮細胞に固着させるV-CAM1などの細胞接着分子

 プロテアソームを阻害する作用をもつベルケード®は、 I-κB の分解を抑制することにより、NF-κB の活性化を抑制し、結果、 骨髄腫細胞をアポトーシス(細胞自滅)へ導くと考えられています(6)。 図を参照してください。

ベルケード®の多発性骨髄腫に対する有効性
 2003年6月にRichardsonらから報告された第2相臨床試験の報告です(7)。

治療の対象:
 既治療例202例であり未治療例は含まれていません。14施設での共同研究です。前治療としては、ステロイド(201例)、アルキル化剤(MP療法など186例)、アントラサイクリン(ドキソルビシンなど163例)、サリドマイド(168例)、幹細胞移植例(129例)であり、多くの種類の治療を受けてきた患者さんが対象です。平均の治療種類は6種類でした。これら202例はすべて現治療が効かない患者さんであり、Salvage療法(いわゆる最後の手の治療)にも反応しなかった例です。

投与法:
 ベルケード® (1.3 mg/m2)を静脈注射しました。週に2回、すなわちDay 1, 4, 8, 11に投与し、以後10日間休薬し21日を1クールとしました。2コース終了後に病状が不変または進行した例においては20rのデカドロンの経口投与をベルケード®投与前日と投与翌日に投与しました。8コース終了後に有効であった例では継続治験を行いました。副作用がひどいときは治験を中止し、副作用が弱まればベルケード®の量を1mg/m2に減量して再開しますが、最低0.7mg/m2までの減量は許可されました。投与期間は、平均3.8ヶ月でした。60%の例が最低4クールを終了し、39%が8クール終了しました。54例(27%)が病状の進行のため投与中止となりました。45例(22%)で副作用のため投与中止となりましたた。投与中止となった例は合計99例でしたが、そのうち90%はベルケード®が効きませんでした。投与中止例も含め193例が評価可能でありました。

結果:
 評価可能な193人のうち、治療に反応したのは67人(35%)で、このうち完全寛解が7人(4%)、ほぼ完全寛解(免疫固定法でMタンパクを認める以外は完全寛解の基準を満たしたもの)が12人(6%)、部分寛解が34人(18%)でした。完全寛解に入った例においては、過去の化学療法の種類に偏りはなく、ほとんどの例において最低3種類の治療を受けていました。病状の安定化は24%にみられました。効果がみられるまでの平均期間は1.3ヶ月でした。病状の進行が見られたのは41%で、平均6.6ヶ月後にみられました。効果があった例の再増悪までの平均期間は12.5ヶ月でした。奏功率とβ2ミクログロブリン、性別、Mタンパクのタイプ、前治療の種類とは無関係でしたが、65歳以上の例、骨髄中の形質細胞が50%以上の例においては奏功率が低い傾向がありました。13番染色体は予後不良因子として知られていますが、ベルケード®への反応性とは無関係でした。デカドロンを併用した群と、ベルケード単剤群との効果継続期間は不変でした。完全もしくは部分寛解に達した患者においては、貧血の改善、血小板数の増加、正常免疫グロブリンの回復、身体能力の向上、生活の質の改善も認められています。

ベルケード®の安全性
 同じ報告からですが(7)、最も頻度の多い副作用は胃腸症状、疲労感、血小板減少、知覚神経障害でした。胃腸障害の頻度は多いが比較的軽度でした。一方、重度(Grade3)の副作用でもっとも頻度が多かったのは、血小板減少56人(28%)、末梢神経障害25人(12%)、倦怠感24人(12%)、好中球減少22人(11%)、貧血17人(8%)、嘔吐16人(8%)、脱水症状15人(7%)、下痢14人(7%)、四肢の痛み14人(7%)などで、グレード4(いわゆる重症)の事象は、血小板減少、好中球減少がそれぞれ6人(3%)、下痢2人(1%)、嘔吐、脱力感がそれぞれ1人(1%以下)にみられました。治験以前に神経障害のなかった例において、神経障害は確かにベルケード®でもたらされましたが、ほとんどはGrade2以下でした。副作用のために、薬剤減量を余儀なくされたのは12%であり、神経障害で投与を中止された例は4%でした。その他の原因を含め薬剤による副作用で使用を中止せざるを得なくなったのは18%でした。そのうち4%の患者は治療継続できない事象が複数にわたっていました。10人(5%)が最後にベルケード®の投与を受けた後20日以内に死亡しましたが、その主な原因は骨髄腫の進行と考えられ、2人(1%以下)の患者はおそらくベルケード®の投与が死亡原因と考えられています。

結論:
 ベルケード®は難治、再発性骨髄腫の35%に有効であり、病状を安定化させる可能性があります。サリドマイドがきかなくなった症例にも有効な場合があります。一方、本治験は既治療例、治療抵抗例を対象としているためか、41%に進行が見られたことも事実であり、効果があった例でも平均約1年で進行が見られています。この報告は第2相治験であり、生存期間を延長できるかどうかは今後比較治験で証明する必要があります。病初期からの使用で、生存期間を延長できるかどうかについても今後のデータの集積を待たねばなりません。

最近のスタディなどから
 現在、ベルケード®の第3相臨床試験が欧米各国95の施設で、既に1〜2回の化学療法を経験している患者669人を対象に行われています。この臨床試験では、無作為にベルケード®投与群、大量デキサメサゾン投与群に分け、その効果を比較しています。 2004年のASCO(米国臨床がん学会 American Society of Clinical Oncology )で発表された中間報告によると(8)、再び病気の進行が認められるまでの期間は、デキサメサゾン群では中央値が3.6ヶ月だったのに対し、ベルケード®群ではその中央値が5.7ヶ月と、58%長期化したとのことです。また、試験結果を評価した時点における死亡数は、デキサメサゾン群が24人、ベルケード®群は13人と少なく、治療後1年間の死亡リスクを割り出したところ、ベルケード®群はデキサメサゾン群に比べて30%低かったとのことです。重度感染の比率については、デキサメサゾン群が10.6%だったのに対し、ベルケード®群は6.7%と低い値を示したと報告しています。この時点での結果で、この治験は終了し、デカドロン群の患者さんもベルケードを開始してもよいことになりました。
 この試験やその他現在進行中の臨床試験の結果によって、ベルケード®による骨髄腫治療のガイダンスが明らかになるものと思われます。

 最初に述べたとおり、日本では現在、承認申請中です。化学療法に抵抗性となった患者にとってひとつの選択肢となり得るベルケード®が一日も早く承認されるよう、日本骨髄腫患者の会では陳情活動を行っています。



参考文献(インターネット上で入手可能です) 
(1) Adams J, et al : Development of the Proteasome Inhibitor PS-341. The Oncologist7:9-16, 2002
(2) Kane, et al : Velcade®: U.S. FDA Approval for the Treatment of Multiple Myeloma Progressing on Prior Therapy. The Oncologist, Vol. 8, 508?513, 2003
(3) U.S. Food and Drug Administration ? Center for Drug Evaluation and Research : Drug Information, Velcade (bortezomib)
(4) Adams J, et al : Proteasome inhibitors as new anticancer drugs. Curr Opin Oncol14:
628-634, 2002

(5) Adams J, et al : Proteasome inhibitors : a nobel class of potent and effective
antitumor agents. Cancer Res 59: 2615-2622,1999

(6) Hideshima T, et al : The Proteasome Inhibitor PS-341 Inhibits Growth, Induces Apoptosis, and Overcomes Drug Resistance in Human Multiple Myeloma Cells. Cancer Research 61,: 3071-3076, 2001
(7) Richardson, et al : A Phase 2 Study of Bortezomib in Relapsed, Refractory Myeloma.
New England Jounal of Medicine 348; 2609-2617, 2003

(8) Richardson, et al : Bortezomib vs. dexamethasone in relapsed multiple myeloma: A phase 3 randomized study. 2004 ASCO Annual Meeting, Abstract No: 6511


作成 2004年6月
                    文責 日本骨髄腫患者の会 上甲 恭子
                    監修 熊本大学医学部附属病院血液内科 畑 裕之先生


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