厚生労働大臣 坂口 力 殿
厚生労働省医政局長 篠崎 英夫 殿
厚生労働省医薬局長 小島 比登志 殿
要 望 書
件名「多発性骨髄腫の治療薬であるサリドマイドの承認」
要望
1. 多発性骨髄腫の治療薬であるサリドマイドの日本国内での製造・販売の承認を要望する。
1. サリドマイドの流通においては、過去に引き起こした重大な薬害を繰り返さないための特別措置を取ることを要望する。
趣旨
サリドマイドは多発性骨髄腫の有効な治療薬であり、その事実は国内外の医学界で認められている。しかし日本では、製薬会社からの承認申請がないため、未承認薬である。その結果日本では、サリドマイドによる治療で助かるはずの多発性骨髄腫の患者が、数千人規模で死亡していると思われる。
また未承認薬として使用されているために、薬事法で義務づけられている副作用などの危険性に関する情報提供が十分にされておらず、妊娠初期の服用によりいわゆるサリドマイド児が生まれる危険性も衆知されていない。
このような事態を見過ごすことはできない。
2002年 10 月 28 日
要望者 「日本骨髄腫患者の会」 住所 東京都小金井市東町 4-37-11
代表 高橋健二
【多発性骨髄腫に対するサリドマイドの治療効果】
サリドマイドは多発性骨髄腫の進行を止め、病状を改善する効果がある。このことは国際的に医学界で認められている。欧米ではサリドマイドによる多発性骨髄腫の治療はすでに臨床試験の段階を過ぎ、標準治療となっている。
多発性骨髄腫を完治する方法は、残念ながらまだ発見されていない。しかし治療法の研究は着々と進んでおり、サリドマイド治療により生き延びることで近い将来、完治の日を迎える患者もいるはずである。
欧米では現在、サリドマイドと他の薬剤との併用療法が有望とされ、臨床での治療効果の報告がされている。臨床で使用されているサリドマイドを含む多剤併用療法には、BLT-D(Biaxin, Low-dose Thalidomide, Dexamethasone)、TD(Thalidomide, Dexamethasone)、DT-PACE (Dexamethasone, Thalidomide, Cisplatin, Adriamycin, Cyclophosphamide, Etoposide)などがある。BLT-D(デキサメタゾンおよびバイアキシンとの多剤併用療法)では、80%以上の患者に効果が現れたという最近の報告もある。
日本ではサリドマイドが未承認薬のため、薬剤耐性により他のすべての治療薬が効かなくなった患者への「最後の手段」としてサリドマイド単剤で使用されている例が多い。その場合でも、25〜35%の患者に効果が現れる。効果の持続期間はまちまちだが、数年にわたりほぼ完全に病状を押さえて通常の生活を送っている例もある。
現在、日本で多発性骨髄腫の標準治療とされているのは、MP(メルファランを用いた化学療法)である。MPは免疫力を低下させるため、多発性骨髄腫の進行を食い止めたとしても、患者が感染症にかかり死亡するケースが多い。サリドマイドにも副作用はあるが、MPに比べれば患者の身体への負担は軽い。その意味でもサリドマイドは有効な治療法である。
【欧米での承認の状況】
米国では、サリドマイドは1998年7月にFDA(The United States Food and Drug Administration)によりハンセン病治療薬として承認され、同年10月1日より国内販売が開始された。続く10月23日には多発性骨髄腫の治療薬としてオーファンドラッグ指定(※注1)を受けた。ヨーロッパでは、2001年10月に多発性骨髄腫治療薬としてEMEA(European Medicine Evaluation Agency of the European Commission)よりオーファンドラッグ指定を受けた。
(※注1)ここでいう欧米のオーファンドラッグ指定とは、対象薬の臨床試験目的での独占販売許可(期限限定)を意味する。対象薬は市場に流通しており治療に使用することができる。
欧米での承認に関する参考サイト
http://www.biospace.com/ccis/news_rxtarget.cfm?RXTargetID=230&SR=101
http://www.targethealth.com/103198.htm
【不足する日本での供給】
日本の医師や患者の多くはサリドマイドが多発性骨髄腫に効くことを知らない。知っていたとしても、主治医や病院が未承認薬を使用しない方針であれば、患者はサリドマイドを用いた治療を受けられない。
現在日本には、約1万人の多発性骨髄腫の患者がいるといわれる。そこから算出すると、「最後の手段」として単剤で使用した場合でも、サリドマイドの服用により3千人程度(1万人の25〜35%)は生き延びられるはずである。しかし実際に日本でサリドマイドの治療を受けている多発性骨髄腫患者は、どんなに多く見積もっても500人に満たない。助かるはずの患者が2〜3千人も亡くなっているということになる。
1998年のアメリカでのオーファンドラッグ指定は、海外の最新治療情報を収集している患者や専門医師の知るところとなった。しかし日本で未承認薬を合法的に使用するには、医師が自己責任の治療目的で海外より取り寄せるいわゆる「医師による個人輸入」しかない。そこで「医師による個人輸入」によるサリドマイド治療が一部の医療現場で行われるようになった。
一人でも多くの多発性骨髄腫患者がサリドマイド治療を受けられるようにと、「日本骨髄腫患者の会」では「医師による個人輸入」の事務代行をボランティアで2000年から行ってきた。「日本骨髄腫患者の会」が事務代行した「医師による個人輸入」のサリドマイドは2002年8月までの2年8カ月間で276患者分、14万5950錠である(※注2)。「日本骨髄腫患者の会」はサリドマイドの輸入事務代行を宣伝していないが、問い合わせは増え続けている。輸入事務代行したサリドマイドは2000年には2万6300錠だったが、2001年には5万2950錠と倍増している。この増加の背景には、国内外での臨床使用例の蓄積にともない、多発性骨髄腫に対するサリドマイドの有効性が広く認知されたことがあると思われる。
(※注2)「日本骨髄腫患者の会」は多発性骨髄腫の患者のみを対象に輸入事務代行をしており、これらの数字の対象となっているのはすべて多発性骨髄腫の患者である。
「日本骨髄腫患者の会」が事務代行する場合には、メキシコの製薬会社からサリドマイドを購入する。この製薬会社の供給能力には限りがあり、増加し続けるサリドマイド需要には対応できない。2002年には、在庫切れにより数週間供給できなかったことが数回あった。
多発性骨髄腫患者にとって命の綱であるサリドマイドの安定供給のためにも、1日も早く承認薬として国内で製造・販売するよう要望する。
【製薬会社からの承認申請がない】
日本での医薬品の承認は、一般に製薬企業などが有効性・安全性に関する資料を添付して厚生労働省に承認申請し、審査の結果、有効性・安全性について確認された場合に厚生労働大臣が承認を与えることになっている。
しかしサリドマイドに関しては、いまだにどの製薬会社からも承認申請がなされない。そのため承認審査が行われず、承認されていない。
なぜ、どの製薬会社も承認申請しないのだろうか? 想像でしかないが、製薬会社(営利企業)にとってサリドマイドは、経済的合理性のない商品ということなのだろう。
そもそも国がどの薬を承認するかは、経済的合理性ではなく、その薬が病気を治し人の命を救うかどうかで決めるべきではないだろうか。製薬会社だけが承認申請できるという現行の制度は不備である。
不備な制度のために、助かるはずの多発性骨髄腫患者が毎年何千人も命を落としている。この事態を重く受け止めていただきたい。
サリドマイドを承認申請するよう製薬会社に国から働きかけるか、製薬会社からの承認申請がなくても承認薬として国内で製造・販売できる何らかのしくみを作ることを要望する。
【未承認のまま流通することの危険性】
薬事法では製造・販売元の製薬会社に危険性の情報提供を義務づけている。しかし日本ではサリドマイドが未承認薬であるため、薬事法によるコントロールが機能しない状態で流通している。医療教育からも抜け落ちている。
サリドマイドには副作用がある。もっとも一般的な副作用は、末梢神経障害、眠気、めまい、発疹、便秘、白血球減少症、静脈血栓などである。これらの副作用や禁忌、慎重投与に関する情報を医師や薬剤師に伝えることは、製造・販売元の製薬会社の義務である。しかし、サリドマイドは未承認薬として海外から輸入されているため、情報提供の義務を負うべき製薬会社が存在しない。
1998年以来の国内外での臨床使用により一部の医療機関には、投与量と副作用の相互関係など、サリドマイド治療上の注意に関する情報が蓄積されている。それらの情報は学会発表を通じて知ることができるものの、個々の医療現場で十分に共有されているとはいえない。これも未承認薬として流通していることに起因する問題点である。
妊娠初期のサリドマイドの服用は胎児の成長を阻害し、過去に重大な薬害を起している。薬害は適切な措置と広報活動により回避できるはずである。しかしサリドマイドが未承認薬として使用されているため十分な対策がとられていない。
アメリカではS.T.E.P.S.(サリドマイド教育および安全な処方のためのシステム)という特別なプログラムがあり、このプログラムに登録した医師および薬剤師のみが、サリドマイドを処方または投薬できる。患者も、サリドマイドを受け取る前にS.T.E.P.S.にそった教育を受けることが義務づけられている。
患者の保護のためにサリドマイドを承認薬として薬事法の下での適正な安全対策をとり、さらに過去の不幸な薬害を繰り返す潜在的な危険性を排除するために、S.T.E.P.S.に習ったプログラムを導入することを要望する。
以上
添付資料
1.「多発性骨髄種と血管新生」
掲載誌:日本内科学会雑誌 第91巻 臨時増刊号 2002年9月20日
2.「Thalidomide for the Treatment of Refractory Multiple Myeloma」
掲載誌:Japanese Journal of Cancer Research, Vol.93 No.9 September 2002(P.1029-1036)
3.「多発性骨髄種患者の手引き」
4.日本骨髄種患者の会会報「がんばりまっしょい」
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